宮古駅に降り立つと、これから始まる旅を予感させるような澄み渡った空が広がっていた。ふと見上げた駅舎の屋根は鮮やかなブルー。三陸の夏の海はこんな色なのだろうか。海岸にはまだ遠いはずだが、どことなく潮風が漂う気配がする。風に吹かれ、足の向くまま歩いてみようか―。
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まずは腹ごしらえ。海の幸をふんだんに使った名物駅弁があると聞き、駅にほど近い製造元の「魚元」を訪れてみた。
数種類ある弁当の中でも女将の張間重子さんが薦めるのは季節限定の「まるごとあわび弁当」(2,100円、要予約)。有田焼の美しい器に、酒蒸しのアワビが丸々1個、自家製しょうゆだれに漬け込んだイクラ、カニが盛られている。ほおばると、口の中いっぱいに潮の香りが広がった。 |
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 市民の台所として、また観光客にも親しまれているのが「魚菜市場」。鮮魚・海産物、青果など36店が軒を連ね、活気に満ちあふれている。「この魚、どうやって食べたらおいしいの?」「この時期のお薦めは?」。そんな会話のやり取りも楽しい。
「今はなんといってもウニだね」と教えてくれたのは「シーフーズ須藤」の店頭に立つ三浦春子さん。赤いエプロンがよく似合う。「三陸の荒波にもまれているから甘みが違うんだよ。『宮古のウニじゃなきゃ』って全国から注文がくるくらいだから」。旬の幸を笑顔とともに届けている。 |
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そろそろ、海に向かうとしよう。
ウミネコの鳴き声に出迎えられたのが、極楽浄土にたとえられた浄土ケ浜。白い浜と、海にそそり立つ岩のコントラストが美しい。初めてでも、幾度となく訪れても、人々を魅了する風景が広がる。
カメラを構える女性に出会い、声を掛けてみた。宮古に生まれ育ち76年、カメラを持ち始めて10年になるという伊香元子さん。「宮古の素敵なところを皆さんに見せたいと思って」と、四季折々の表情をとらえに通う。その写真は古里を離れた知人に送り、喜ばれている。ひとしきり話をした後「また、おでってくたせんせ」と、耳にやさしい宮古弁で送り出してくれた。 |
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寄せては返す波の音を聞いていたら、どっぷりと三陸に浸る旅がしたくなった。トドケ崎灯台がある本州最東端の重茂半島へと足を延ばす。道すがらの漁港では、粟津善明さん(30)が漁の準備をしていた。
ウニ漁が口開けされると、家族総出で特産の焼きうに作りに精を出す。「身を一つ一つ丁寧にアワビの貝に並べて焼き上げる。絶品だよ」という、その味。たまらなく魅力的だ。
後ろ髪を引かれながらも灯台に向かう。
車で行けるのは姉吉キャンプ場まで。そこからは約4kmの遊歩道を歩く。 ブナやナラなどが茂る森の中。鳥のさえずり、潮騒に耳を傾けていると、心がほぐれていくのを感じる。
歩き始めて約1時間、白亜の灯台が姿を現した。映画「喜びも悲しみも幾歳月」で知られる灯台守が家族と暮らした面影は今はない。断崖絶壁の最端の地からは、 太平洋がどこまでも青く広がっていた。
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